感想
変人につきいろいろと言葉足らずなことがあると思いますが、どうかご容赦ください。
誤解を招くような疑問が出てきたようでしたら、ご遠慮なくお問い合わせください。
「ひとかりしちろ」
<感想>
書きなれの分かる硬派な時代小説であるが、迷いがあるのか冒頭の二文で格調が損なわれている。読者層を気にしてか、せっかくの文章力にもかかわらず歯切れが悪い。
ただし、小説を好きで書いている初心者には風景描写や人物の描き方、心理の描き方、物語の運び方など大変勉強になる逸作。
タイトルに偽りのようなものを感じたのは、物語の中核がしちろでなく姉弟であったためか。
「山の犬」
<感想>
単純な物語の中、不必要に好戦的な匂いが漂う。文章は特に瑕疵もなく合理的で上手に見えるが魅力に欠ける。いろいろなものを上手に書こうとし過ぎているのだろうか。
犬も田舎も必要量文字数を満たしているにもかかわらずその魅力がなぜか今ひとつ伝わってこないので、作者は恐らく都会の人あるいは都会が好きなのだろうと思った。
ただ計算された作品であることは分かる。もっと頭のいい人向けの作品を書いたほうが光るのかもしれない。
「わかばに関する初めての恋について」
<感想>
この作品からは型しか見えてこない。と言うと低評価な印象があるが、必ずしもそうではない。型や作法というものにはそれなりの意味があるからである。茶の湯を嗜む者に利休百首の存在を知らぬものはいない。英知の詰まった偉大なる型を超える努力は、道を志すものは惜しんではならない。しかしながら型を軽んじるものに未来はない。
そのような感想を抱いた。
「緑色の瞳」
<感想>
少女向けの読みやすい小説としてよくまとまっていると思った。彫像のように完璧ハンサムなニコラスに少し人間くさい欠点があると、女性読者にはもっと親近感がわいてよいと思う。
「緑の眼の少年」
<感想>
物語としては単純で分かりやすいので、これも初心者で小説(特に「すこしふしぎ」な小説)を書く人々にはとても参考になる書き方だと思う。
「カエルくん」
<感想>
面白い話にまとまっていた。登場人物たちが大学生にしては幼稚な社会観に思えたが、嫌味のない展開で愛らしい。フィクションでなければ味わえないすがすがしさが存在している。欲張らずカラーを統一していて、今回の投稿作ではもっとも好きな作品の一つ。
「風変りな結実」
<感想>
いつも思うのだが昆虫の複眼というものは人間の脳にとっては十徳ナイフよりも意味がないものではないか。この作品ではその長年の疑問は今回の読書プロジェクトでも残念ながら解決されなかった。悔しい。
オチが少し弱いが煮詰まったか。冗長に書かれた前半部との計算がうまくいっていない。あと作者はもう少し植物図鑑を読んだ方がいいかもしれない。
「緑と白のワルツ」
<感想>
鳥獣戯画が下敷きにでもなっているのだろうか、とほほえましく思った。最後の変化のとけた姿は少しばかり取ってつけた感があり作品の長さももう少し縮められるような気がする。メルヘンのカラーを強く押せば、よい作品として完成するように思える。
「グミ。」
<感想>
(自作にて省略)
「ブーケ」
<感想>
背景が冷たく突き放されて描かれており、常に登場人物と触れあわぬ屏風絵のようにしか見えないし、それに見入ると今度は登場人物の物語を追うことが困難になってしまう。山水の絵巻物と人物の絵巻物がそれぞれに独立して時間が進んでいくような書き方で、閲覧誘導のない美術館に迷い込んでしまったような困惑を覚えるのである。
連想の訓練がなされていないのかこの手法を敢えて拒絶しているのかは分からぬし今回がたまたまこういった作品になっただけなのかもしれないが、背景と人物を同時に楽しめるのが小説というものではないか。
「みどりに好かれた男」
<感想>
やや短すぎるかとは思った。少しばかり物足りないが、印象は悪くない。無駄なエピソードなどを盛り込んでいないせいか、肩に力を入れずに読めた。
「登れ登れ登れ緑」
<感想>
細かい描写が脱落しているので物語のどの部分までがメタファーなのかを把握するのに時間がかかった。同時に、人間型の少女という描写がある緑であるが、これが結局どういう生き物なのか分からないまま最後までストーリーを持って行っても面白いと思った。後半の急の部分はやさしい表現の中にも迫力があり、作者の筆力の余裕を感じさせた。
「All Green」
<感想>
美しく素敵な世界をゆとりを持って描いており、この作品も作者に筆力があることが推察される。ジブリや古い時代の日常系の少女マンガで描かれるありきたりの美のその裏側、砂っぽいからくり。しかし全体から滲み出る強いペシミズムは作中の登場人物では説明がつかない。叶わない夢を小説の形を借りて描いているようにも思える。そういった寂寥感を好む人には大変好評な作品であろう。
「緑という名の世界」
<感想>
少しばかり設定に物語が気おされてしまっている気もしないでもないが、よくまとまっていたと思う。ファンタジーは独りよがりの設定を暴走させてもいけないが、意識して別世界を描ききると大変魅力が出てくる。そのバランスのとり方が難しい。本作は前半部のペースが緩く後半部で少し息切れが見られたが、五〇〇〇字二時間半のペースはある程度書きなれないと少しばかり無謀かもしれない。
休憩時間を置いて四時間から六時間くらいで書いたら、より完成度の高い作品になったと思う。
「チトセッタは15になった」
<感想>
綺麗な話なのだが、一方で人というものの狭い判断力が垣間見える不思議な作品。考古学という学問は地球全史という巨大な岩に小さな針で傷をつける程度のことしか検証できていない。これを学ぶ彼らは圧倒的無知の世界に潜り、過去の遺物であったりその地にいた王侯貴族であったりを推察し、僅かに残った史実とつきあわせて実際はどうであったかを検証しなければならない。考古学は絶望の学問とも言える。
なんとも泥沼王者な作者である。あ、主催さんの作でしたか、今頃気がつきましてどうも。